KATZの菜園便り

四季折々徒然草ー晴耕夜読聴暮らし

藤井宗哲・川口宗清尼「池波正太郎の江戸料理を創る」

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 根深汁と葱の胡麻油炒め

 

 亀右衛門が、目をみはって、

「朝の御膳も、まだ?」

「はい」

「どうなさいました?」

 探るような、亀右衛門の視線であった。

「いや、別に・・・ただ、今朝は手つだいの婆さんが病気ゆえ、自分で仕度するのも

 面倒になってねえ」

 亀右衛門は、すぐさま、朝餉の仕度をしてくれた。

 熱い根深汁(葱の味噌汁)と大根の浅漬と、それに葱のぶつ切りを胡麻の油で炒めた

 ものが出た。

 葱を、こんなふうにして食べるのは、このときが初めての梅安だったが、

 (空腹にはいいものだ)

 と、思った。

 野菜も味噌も、ほとんどが亀右衛門夫婦の手づくりだそうな。

 

         (『梅安針供養』ー「その夜の手紙」より)

 

  「池波正太郎江戸料理を創る」P119-111 1999年4月22日 マガジンハウス刊