藤井宗哲・川口宗清尼「池波正太郎の江戸料理を創る」
根深汁と葱の胡麻油炒め
亀右衛門が、目をみはって、
「朝の御膳も、まだ?」
「はい」
「どうなさいました?」
探るような、亀右衛門の視線であった。
「いや、別に・・・ただ、今朝は手つだいの婆さんが病気ゆえ、自分で仕度するのも
面倒になってねえ」
亀右衛門は、すぐさま、朝餉の仕度をしてくれた。
熱い根深汁(葱の味噌汁)と大根の浅漬と、それに葱のぶつ切りを胡麻の油で炒めた
ものが出た。
葱を、こんなふうにして食べるのは、このときが初めての梅安だったが、
(空腹にはいいものだ)
と、思った。
野菜も味噌も、ほとんどが亀右衛門夫婦の手づくりだそうな。
(『梅安針供養』ー「その夜の手紙」より)