KATZの菜園便り

四季折々徒然草ー晴耕夜読聴暮らし

山本夏彦対談集「浮き世のことは笑うよりしかない」

f:id:katzenthal:20180214185718j:plain

   テレビの中のインテリア  向田邦子

 

向田 番組への投書の中で、「Aという番組に出ている茶箪笥が、BとCにも出ている、

あれはよくない」って言われたことがあります。

でも茶箪笥ってテレビ局にはそんなにいくつもないんですよ(笑)

 

山本 ドラマよりセットに注目するんですね。

その気持よく分かります。

まわりの道具立てを楽しむ見方というのもたしかにありますね。

溝口健二(映画監督)は、それに凝りに凝ってあの「元禄忠臣蔵」には建築家を煩わせ

たと聞きました。

 

忠臣蔵ですから「殿中松の廊下」が出てきますね。

それをそっくり再現しようと考えたんです。

いま大熊喜英さんという建築家がいますが、その方のお父さんの喜邦さんが江戸城

図面を持っているとどこからか聞いて、ついに再現したそうです。

そんなに大金をかけたところで、芝居がよくなるわけでもないと、あとで非難されたそ

うですけれど、まあ極端な例ですが、映画のなかで昭和十年なら十年の町や家が見られ

るのは楽しいものです。

                  初出「室内」昭和五十六ねん一月号

 

 

 「浮き世のことは笑うよりしかない」P77-78 2009年3月26日講談社刊