山本夏彦対談集「浮き世のことは笑うよりしかない」
テレビの中のインテリア 向田邦子
向田 番組への投書の中で、「Aという番組に出ている茶箪笥が、BとCにも出ている、
あれはよくない」って言われたことがあります。
でも茶箪笥ってテレビ局にはそんなにいくつもないんですよ(笑)
山本 ドラマよりセットに注目するんですね。
その気持よく分かります。
まわりの道具立てを楽しむ見方というのもたしかにありますね。
溝口健二(映画監督)は、それに凝りに凝ってあの「元禄忠臣蔵」には建築家を煩わせ
たと聞きました。
忠臣蔵ですから「殿中松の廊下」が出てきますね。
それをそっくり再現しようと考えたんです。
いま大熊喜英さんという建築家がいますが、その方のお父さんの喜邦さんが江戸城の
図面を持っているとどこからか聞いて、ついに再現したそうです。
そんなに大金をかけたところで、芝居がよくなるわけでもないと、あとで非難されたそ
うですけれど、まあ極端な例ですが、映画のなかで昭和十年なら十年の町や家が見られ
るのは楽しいものです。
初出「室内」昭和五十六ねん一月号
「浮き世のことは笑うよりしかない」P77-78 2009年3月26日講談社刊