池波正太郎「あるシネマディクトの旅」
居酒屋【BOF】
「パリには何十回も来ている」
「えー・・・・・?」
「フランス映画でね」
「なあんだ・・・・・」
私は一昨年の初夏に、はじめてフランスへ行った。
H社の仕事で、フランス映画について、写真入りの本を書くためだった。
フランス映画を四十何年も観つづけていた所為か、到着の夜、モンパルナスの
〔クーポール〕へ食事に行ったときも、これまでに何度も見た風景に再会した
ようなおもいががして、すこしも違和感がなかった。
本に入れる写真を撮ってくれたのは、パリ在住の写真家・吉田大朋さんだったが、
「はじめてパリに着いたとたんに、まるで東京を歩いているようにあるいている。
こんな人は、はじめてだ」
と、T君にいったそうな。
池波正太郎「あるシネマディクトの旅」2011年3月10日