藤井宗哲・川口宗清尼「池波正太郎の江戸料理を創る」ある日の平蔵の夕餉
ある日の平蔵の夕餉
長谷川平蔵が、好奇の目差しを向け、
「どんなぐあいだ!」
久栄がすべてを語るや、
「はて・・・?」
さすがの平蔵も、咄嗟に処置を講ずることができず、しばらくは煙草を
吸いつづけていたが、ややあって、
「助五郎は、おれに会いたいと申しているのだな?」
「はい」
「よし。夕餉の仕度をせよ。助五郎とさし向かいで、おれも食べよう、
食べながら、はなしをきいてみよう」
「かしこまりました」(中略)
この日の、長谷川平蔵の夕餉の膳にのぼったものは、生鰹節の煮つけに、
蚕豆の塩ゆで。竹の子とわかめの吸物など、質素なもので、先ず、酒と共に
二組の膳部が書院に運ばれた。
(『鬼平犯科帳』-「狐雨」より)
「池波正太郎の江戸料理を創る」P20・21 1999年4月22日
マガジンハウス刊