遠人愛 ニーチェ『ツァラトゥストラはかく語った』
わたしはきみたちに隣人愛を勧めるだろうか。
むしろ、わたしは隣人からの逃避と遠人愛を勧める。
隣人愛よりも、もっとも遠い未来の者への愛のほうが高い。
わたしは人間への愛よりも、物事と幻影への愛のほうがさらに高いと思うものだ。
わたしの兄弟よ、きみに先だって進んでゆく幻影は、きみよりも美しい。
なぜきみはこの幻影に、きみの肉と骨をあたえないのか。
だが、きみは幻影をこわがって、きみの隣人のもとへ走る。
「澁澤龍彦コレクション3天使から怪物まで」P286 1985・6・28
河出書房新社刊