梅 Prunus
的皪たる花
うららかな春に気分とともに咲く桃やアンズや桜ならば、ヨーロッパ人の美意識にも
訴えかけてくるものがあるだろうが、冬の日差しを浴びて的皪と咲く梅の花だけは、
彼らの情緒には少しも反応しないらしいのだ。
梅には派手派手しいところが少なく、凛としたところがありすぎるのではないかという
きがする。
「むめ一りん一輪ほどのあたたかさ」といったような、いわばミニマムの美学ともいう
べきものが、ヨーロッパ人の感性には欠けているのではないかという気がする。
澁澤龍彦「フローラ逍遥」P34 1987年5月十五日 平凡社刊