池波正太郎「池波正太郎の銀座日記〔全〕」
✕月✕日
神田のアテネ・フランセ文化センターで〔ハリウッドの名花シリーズ〕というのを
やっていて、昨日は、その最終日の〔ドロレス・デル・リオ〕編を上映する。
〔栄光〕と〔空中レヴューの時代〕の二編だ。
〔空中・・・・〕にはフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースが傍役で出て
いて、二人が踊った〔カリオカ〕の曲は一世を風靡したばかりでなく、アステアとロジ
ャースのコンビネーションは、以来、名声を高めるばかりとなって、私たちを興奮
させたものだが、私は〔空中・・・・〕を、まだ観ていなかったので、昨日を逃し
たら、もう観る機会がないとおもい。出かけて行ったのだが、案外によいプリントで、
なるほどアステアは傍役ながら、主役ふたりよりも、ずっとよい役だ。
当時のアステアは三十を出たばかりだったし、ジンジャーは二十二歳。
その若さ、溌剌たるエモーションがなんともいえない。
例の〔カリオカ〕はタップ入りの振付で、後年の、この二人のダンスから見れば
食い足りないが、なにしろ一九三〇年代のレヴュー映画(いまはミュージカル)だ。
これが評判になったのは当然だろう。
「池波正太郎の銀座日記〔全〕」P238 平成3年3月25日 新潮文庫刊