KATZの菜園便り

四季折々徒然草ー晴耕夜読聴暮らし

藤井宗哲・川口宗清尼「池波正太郎の江戸料理を創る」焼き茄子のお汁

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 焼き茄子のお汁

 

夕暮れも近くなり、お幸は台所へ入って、夕餉の支度にかかった。

「お幸。今日の惣菜は何だね?」

「あの、先程、組屋敷へ出入りの魚やが、活のよい鯵を持ってまいりましたので、塩焼

にいたしまして。。。あの、爺やは煮魚が好きですから煮つけにいたします」

「ほう、それはよいな」

「あとは、お豆腐。それ、その水桶に冷やしてあります」

こういってお幸が、大福餅のような白く肥えた躰へ精いっぱいの科をつくり、

「それにあの、焼茄子のお汁でございます」

「そうか、うまそうだな。うまそうだな。」

「あれ、旦那さま。。。」

「む?」

「何やら、空が。。。」

 

いつの間にか、夏の夕暮れの明るさが、急に陰ってきはじめた。

このとき稲妻が、疾り、ついで雷鳴がとどろいた。

        P46・47     (『鬼平犯科帳』ー「俄か雨」より)

 

藤井宗哲・川口宗清尼「池波正太郎江戸料理を創る」1999年4月22日

マガジンハウス刊