KATZの菜園便り

四季折々徒然草ー晴耕夜読聴暮らし

池波正太郎「おおげさがきらい」

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 おおげさがきらい

 

母は三十前から女手一つで働きつつ、私ども兄弟二人を育ててきたわけだが、

「ろくに教育を受けさせたわけでもなし、私はけっして無理な働き方をして

子どもを育てたわけでもない」

 

今、六十六になる母は、事もなげに言う。

私ども兄弟も、小学校を出ると、すぐに世の中へ出たわけだが、これとても当然な

ことだと私たちも思っているし、母もそう思っている。

したがって、われわれ母子は昔の苦労話をすることがなかったし、何事にもおおげさ

に事を行ない、言葉に出すことがきらいだということを、母は身をもって示した。

 

私が直木賞をもらったときなども、

「そうかい

と、事もなげに一言。

もっとも内心はうれしかったらしいが・・・

 

                (主婦の友・昭和四十二年12月号)

 

 池波正太郎「おおげさがきらい」2003年2月15日 講談社