KATZの菜園便り

四季折々徒然草ー晴耕夜読聴暮らし

藤井宗哲・川口宗清尼「池波正太郎の江戸料理を創る」

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 浅蜊と大根の小鍋立て

 

その夜・・・。

梅安は。ひとりで、おそい夕餉の膳に向っていた。

春の足音は、いったん遠退いたらしい。

毎日の底冷えが強く、ことに今夜は、(雪になるのではないか・・・)

と、おもわれた。

梅安は、鍋へ、うす味の出汁を張って焜炉にかけ、これを膳の傍へ運んだ。

大皿へ、大根を千六本に刻んだものが山盛りになってい、浅蜊のむきみもたっぷりと

用意してある。

出汁が煮え立った鍋の中へ、梅安は手づかみで大根を入れ、浅蜊を入れた。

千切りの大根は、すぐに煮える。

煮えるそばから、これを小鉢に取り、粉山椒をふりかけ、出汁と共にふうふういい

ながら食べるのである。

このとき、酒は冷のまま、湯のみ茶わんでのむのが梅安の好みだ。

      (『梅安最合傘』-「梅安最合傘」より)

 

 「池波正太郎江戸料理を創る」1999年4月22日 マガジンハウス刊